おかげさま
今日のお昼に、実家の母親から電話があった。
「今日から一本杖で歩けるようになったよ」
「そうか、それはよかったね」
「おかげさんで」
実家の母は、一昨年の10月に脳梗塞で倒れた。
母は自宅近くの飲食店でアルバイトをしていた。
勤務は午前10時~午後2時。
ところが、出勤時間になっても母がお店に現れない。
アルバイト先のオーナーが、いつもの時間に母がやって来ないことを心配し、自宅まで様子を見に行ってくれた。
そして母は自宅で倒れているところを発見され、すぐに救急車で運ばれた。
父はそのとき違う病院に入院しており、当時は母一人で暮らしていた。
あと少し発見が遅かったら、命が危なかったそうだ。
何とか命に別状はなかったものの、重い後遺症が残ってしまった。
言葉がうまくしゃべれない、右手が言うことを聞かない、そして歩けない。
2年前、勤務先を休んで、母の病状を見に行ったとき、病院の担当医師から
「もしかしたらこのまま車いす生活になる可能性が高いから、後のことを考えておいた方がいい」
と言われた。
しかし、一年前には車いすを返却し、自分の力で立てるようになった。
今年の5月には、自宅でも自分でご飯を作ったり、一人でお風呂に入れるようにもなった。
そして今日、「一本杖だけで歩けるようになったよ」とうれしそうな声で電話をくれた。
今日の電話で私の耳に残った言葉。
「おかげさんで、ありがとう」
という母の声。
それを何度も何度も電話の向こうで繰り返していた。
良かった良かった。
もう少し長生きしてね。